山形旅行の道端で-ふきのとう-

 春に山形へ行く機会がありまして、実家のある京都府から10時間ほどの長丁場を、車に乗ってとっとことっとこ走っていきました。3月の終わり頃のことで、東京では桜が開花しそうだという予報も出ていた時期でしたが、目的地鶴岡市内に入ったあたりから雪が舞い始め、ホテルに到着したときには道にも積もり始めていました。もちろん翌朝は一面の雪景色。毎年30cmくらいの積雪があるような地方の出身なのでそれなりに雪も見飽きていたつもりでしたが、やはり「本場」の雪景色は一味違うのだなあとじっと眺めていた記憶があります。地元の人によるとこの時期の雪はそう珍しいことではないといいます。

 ほとんど仕事手伝いのために計画した旅行だったのであまり頻繁に外出するわけにはいきませんでしたが、ちょうど周りを田んぼに囲まれた開けた場所だったので、昼休みや適当な時間に少し散歩をすることができました。何しろ雪に埋もれてしまっているので、見えるのは枯れ木や枯れ草の先端、時々雪の融けているのがあれば用水路があるといった程度で、見るべき物と言うのはそうありません。しかし季節は春が始まろうかという3月の終盤。このあたりをよく思い出してみれば、なるほど、おいしそうなのがあるのです。ふきのとうです。

 ふきのとうと言うと混乱してしまう人もいますが、漢字で書くと「蕗の薹」、その正体はキク科フキ属フキ(学名Petasites japonicus)の花茎です。よく料理で出てくるフキ、あれの蕾を食べているわけです。同じキク科のタンポポやハルジオンも蕾を天ぷらにして食べることができるので、植物研究会新入生歓迎パーティーでは恒例のメニューとなっています。さすがにふきのとうほど美味とはいきませんが、ふきのとうと同じく菊のような香りと苦味が味覚を引き締めます。

 フキの葉とふきのとうが時期的にずれているのであまり意識することはないのですが、それぞれ土の中では地下茎で繋がっています。地下茎ですから、茎は地上で伸びることはありません。つまり、フキの料理になる部分、あそこは茎ではなくて葉っぱの付け根(これを特に葉柄と呼びます)なのです。結局のところ、葉っぱを食っているわけです。

 フキは日本原産です。そのことは種小名japonicumを見てもなんとなく想像できるかもしれません。北は北海道から南は沖縄まで、日本全国に分布、他には中国などにもあるようです。雪の中から出てくるのが一番馴染み深い風景のような気もするのですが、沖縄のような暖かい地方でも見られると言うのは植研季報の原稿を書いていて初めて知ったことです。もしかしたら椰子の木の根元からふきのとうが出ている光景を見ることができるのでしょうか。

 山形を出発する前日に、地元の方から蕗味噌というのをいたがきました。今まで存在すら知らなかったのですが、一口食べてみるとこれがうまい。急いでいたので山形のお酒を買い忘れてしまったのが唯一の心残りです。山形の酒はウマイですから、この蕗味噌と合うんだろうなあと涎が出てきます。大まかな蕗味噌の作り方は次のようです。詳しくはネットで検索すればたくさんでてきます。山形でいただいた蕗味噌は味噌が多めでしたが、レシピを検索すると味噌をかなり少なくしているものもあるようですから、お酒に合うお好みの味付けを探すのも楽しみです。

[蕗味噌]
1.ふきのとうを洗い、汚れた所を取り、荒く刻む。
2.ごま油でふきのとうを炒める。
3.火が通ったら砂糖、だし汁、みりんを加えて混ぜる。
4.弱火にして味噌を加えて混ぜる。ここで味噌の量が様々です。

 農工大の中では、馬術部の厩舎裏手農場側にフキが数本生えています。3月の終わりごろに行くとちょうどふきのとうが生えていました。来年の新入生歓迎会ではきっと蕗味噌を並べてやろうとたくらんでいるところです。

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