身近なものに目を向ける-京王線の電車-

・はじめに

 身近な雑草の名前を調べることは植物研究会の活動の一つであり、数名の部員が断続的に活動を続けています。いくつかの植物を調査すると、今まで唯の雑草であると思っていた植物にもきちんと名前があり、小さく目立たないながらも美しい花を咲かせる姿を見つけることができ、「灯台下暗し」という諺を思い知らされます。
 とかく我々は、それが身近にあればあるほど、「きれいな花」「邪魔な雑草」などと短絡的に分類して、正面から向き合うことをしません。身の回りの「当たり前」だと思っている事物に少しばかりの関心を向け、さらにほんの少しでいいからじっくり観察してみることで、日常生活は発見に満ちた楽しいものになるのではないでしょうか。つまらないと判断する前に、いちど立ち止まってみませんか。
 本稿では、すっかり府中市民の移動手段として「当たり前」となっている京王線の電車に注目して、日常に潜む小さな発見の一助となるよう解説します。

・京王電鉄の概要

 現在の京王電鉄は、1948年に京王帝都電鉄が発足したことにより誕生しました。発足当初は京王線内にも単線区間が残り、相模原線は京王多摩川までしかなく、また高尾線は存在していませんでした。それら各線の全通や京王新線の開通を経て現在の形になったのです。なお、1998年に、開業50周年の節目として社名を京王電鉄へと変更しています。
 路線は京王線、相模原線、高尾線、競馬場線、動物園線、井の頭線があります。井の頭線以外は軌間(レール2本の間の幅)が1372mmで統一されているため一体となった運行形態をとることが可能ですが、井の頭線は戦前に別会社だった経緯から軌間は1067mm(これは狭軌とよばれ、JRやその他多くの私鉄と同じ)であり、線路は接続されておらず車両や運用が独立しています。

・京王線の車両

 最も狭い意味での京王線は、新宿-京王八王子間の路線を指します。実際には高尾線、相模原線の優等列車と、動物園線と競馬場線の臨時列車が新宿方面と直通運転しているため、井の頭線を除いた全線を合わせて京王線と呼ぶこともあるのですが、今回は府中市近辺(つまり狭い意味での京王線)を走る車両について紹介します。
 なお、車両紹介では「系」という言葉がよく出てきます。例えば「6000系」というのは、6000番台の車両番号を持つ一群と捉えてください。各車両の外側窓下あたりに車両番号が示されていますから、駅で列車を待っている間に確認して暇を潰すのもよいかもしれません。

・・6000系

 6000系は1972年から製造が始まった車両で、長い間京王線を支えてきました。しかし近年は老朽化に伴って廃車が進められ、回生ブレーキ(ブレーキをかけるときに発電して電力を再利用する省エネ装置)を持つ車両が残るだけとなっています。ステンレス車両が多数を占める通勤電車の中で、鋼製で白ベタ塗りの6000系はもはや旧世代の長老といえる存在かもしれません。
 しかし、まだ5両+5両や8両+2両の10両編成で特急列車として走っていて、十分現役の様子です。また、2両編成の6000系が9000系のお尻にくっついて特急列車として走っている姿も見られます。もし一日中6000系を見たいのであれば、競馬場線や動物園線に行くことで望みが満たされますから、ぜひ行って見てください。動物園線では高幡不動と多摩動物公園の間の短い区間を、動物のイラストを身にまとった4両編成の6000系が一日中行ったり来たりしています。動物園線の6000系は一つの車両に片側5つの扉があるのも特徴です(京王線は扉が4つ)。

・・7000系

 7000系は京王線初のステンレス車両で、1984年に製造が始まりました。ステンレスはその名が示す通り錆びにくく長持ちするため、鋼製車両のように全面を塗料でベタ塗りする必要がなく、維持コストを低減することができます。普通鋼の車両よりも強度が弱いと考える人が多いようですが実際には全く反対で、鋼に比べて強度が強いため少ない鋼材で製造できるメリットがあります。
 もともと各駅停車用として造られたため各駅停車での運用が多いようですが、特急・準特急列車としてもよく走っていて、その場合は2両+8両、4両+6両、または10両固定の編成に限定されます。各駅停車や快速としては8両編成で走っています。 最近では内装の更新工事が進められています。特に今年に入ってからの工事では、窓ガラスをUVカット仕様のものに変更するなど、最新の通勤電車と同様の設備が導入されています。もしかしたら更新済みの7000系が偶然にもやってくるかもしれません。乗り込むときはそのあたりに注目すると楽しみが増えます。

・・8000系

 8000系は京王線初のVVVFインバータを採用した車両です。VVVFインバータ搭載車両は加速性能がよく、それでいて省エネ化が可能であり、おまけに滑らかに発進できるという利点を持ちます。自動車のギアチェンジのような段階的なモーター音を発しながら加速するので、乗っているとすぐにわかります。現在6000系と7000系にもVVVFインバータを搭載する工事が行われていて、数年以内に京王線の車両は全てVVVFインバータを載せたものになるようです。
 8000系は6両+4両の10両編成と8両固定編成があります。10両編成のものは主に特急・準特急として運用され、先頭車前面の行き先表示と種別表示が幕式になっているのが特徴です。側面表示は幕式の編成とLEDの編成が混在しています。8両編成の車両は各駅停車や相模原線の急行・快速として走っていて、表示は全てLEDに変更されています。また、写真を見てもわかるように、8両編成の先頭車には排障器(スカートとも呼ばれ、線路上の障害物が車体下にもぐりこむのを防ぐ)に切り欠きがありません。これは、編成の切り離しを容易にする自動解結装置が装備されていないためです。

・・9000系

 9000系は2000年に製造が始まった京王線で最も新しい電車です。車体前面・側面の行き先・種別表示は全てLEDとなり、車内にはLED式案内板が設置され、VVVFインバータも8000系より1世代新しいものが搭載されました。老朽化した6000系を置き換えることを目的に製造されたため、2両編成の6000系を連結して走ることができます。また、2006年以降に製造された車両は都営新宿線との直通運転が可能な仕様です。
 8両と10両の2種類の編成があり、8両編成のものは各駅停車から特急まであらゆる運用をこなします。準特急・特急(最近は特急として走ることはあまりないが)の場合はお尻に2両編成の6000系を増結して10両編成となることで十分な輸送力を確保します。10両固定編成は都営新宿線乗り入れ仕様となっていて、専ら直通運転用です。

 さて、ここまで4種類の車両を紹介しましたが、これらはそれぞれの特徴のほんの一端を示したに過ぎません。実際に乗ってみて、あるいは外から眺めてみれば、もっと違った側面を見つけ出すことができるはずです。また、京王線の電車という、広い日本の中のわずかな領域を浅く掘り下げただけであることも忘れてはなりません。世の中にはもっとたくさんの物があり、もっと魅力的な秘密が隠されています。生活の中にある「当たり前」だと思っている事物に目を向け詳しく調べれば、新しい発見がたくさん待っているに違いありません。どんどん興味を持って、気になったら調べてみること。それが植物研究会の心です。

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